僕等の世界Ⅲ、後日
一息つく度に自分の薬指を見てはニヤケる。
そんな傍から見れば馬鹿みたいな行為に、堪らなく幸せを感じた。
あの日からタンマツの待受けは笑顔で指輪を向ける美咲になった。指輪を買う上で参考になったので淡島副長には一応、礼を言ってついでに加茂にも言ったら幽霊でも見たような顔をされた。室長には書類を提出する度にあとは室長が頑張ってくれたら完璧なんですけどといい続けたら、とりあえず扶養家族として美咲を入れてくれた。お礼に俺がどんなに幸せか語りながら餡子ON大福ON餡子を室長の皿に乗せてやった。
隣に淡島副長がいたから何も言えない室長は震えてた。
「伏見さん、出来ました!」
「あ?ああ…‥そこ置いとけ。あっ、道明寺この間の書類出来たら直接室長に提出しろ。話はしてあるから」
「はい!あの…‥伏見さん」
「何だよ?」
「その指輪すっごく綺麗ですね!やっぱりオーダーメイドですか?」
「そりゃあデザインから石までフルオーダーに決まってるだろう」
「やっぱり!!メーカーも有名なのですよね?やっぱり結構しましたか?」
「道明寺!!」
加茂が諫めるように声を荒げ、えー別にいいじゃん、と反論する道明寺の首根っこを掴むと席まで引きずって行く。
「…‥道明寺、お前付き合ってる奴いるのか?」
「えっ?…‥いや、今は仕事だけっすよ…‥つーか今は女の子と出逢う機会も時間も無いし」
「なら、何の参考にもならねぇけど教えてやるよ」
「マジっすか?!」
「店はハ●ーウィ●ス●ンで値段は約700万だ」
「なっ…‥ななひゃ、伏見さんパネェ…‥」
一気に周りがざわつく。
当初の予算は1000万だったから大分下がったが、値段じゃないんだよ愛だ愛。
無い時間掻き集めてデザイン決めて、石決めて、愛がなきゃあんな面倒くせぇ事出来ないっての。まあ、俺も若干マリッジハイみたいになってたから頭のネジ飛んでたけど。
「…‥なあ、道明寺」
「はい?」
「時間が無くて出逢いが無いって事は時間があれば出逢いがあるんだな?」
「えっ?何ですか伏見さん女の子紹介してくれるんで」
「今日から一ヶ月定時で終わるように死ぬ気で仕事しろ。そうすれば合コンでも何でもいけるだろ?で、とっとと相手見付けろ」
「えっ?えっ?な、何でですか?!!!」
「前々から思ってたんだがお前が仕事をグダグダするのは仕事終わりに何の楽しみも無いからだ。俺はいち早く仕事を終わらせて愛する嫁に逢いたいが、お前には待っていてくれる恋人すらいないから仕事が遅ぇんだよ…‥つーわけで今日から一ヶ月はノー残業月間とする。そして来月には相手作れ全員な」
「「「「「「「はい?!!!!!!!!!!!!」」」」」」」
「…‥あの、伏見さん」
「何だ榎本」
「俺、二次元に嫁がいるんですが」
「えっ、ちょっとエノそれズルイ!!!」
「…‥お前は許す。だけど無駄な残業すんなよ?」
「はい、今月はゲームが出たばかりなので残業しません!」
「よし」
「いやいや、伏見さん!!!よしじゃないですよ!!!!」
「チッ…‥」
ごちゃごちゃと抗議してきた日高の鳩尾に一発いれると、他の連中も何か言いたげだったが黙って仕事をし出した。
マジでこっちは残業なんてしてらんねぇんだよ。
家で愛する嫁が夕飯作って待ってるんだ。
とっとと帰る以外の選択肢があってたまるかよ。
パソコンのデスクトップの美咲の頬を撫でると仕事に取り掛かる。
一分でも、一秒でも早く帰る為に。
END.