猿美夫婦?の日常
一通り家事も終わり、買い物にでも行こうかと思った時にタンマツが鳴った。
鎌本からで草薙さんが新作メニューを作ったので試食しに来ないかとの誘いだった。特に予定も無いのでHOMRAに向かった。
今回の新作メニューはトマトシチュー。草薙さんが最近出始めたなんとかトマトとフランス産のなんとかワインで牛のなんとかって部分を煮込んで云々と色々説明していたが殆ど理解できなかったので適当に相槌を打っていると、途中から千歳達も来ていつものメンバーでテレビを見ながら新作のシチューを食べた。
シチューは普通に美味かった。レシピを聞いて家でも作ろうかな、なんてぼんやりと思いながらテレビを見ていると女子に聞いたカレシにしてもらいたいランキング☆と言うコーナーが始まった。
「こう言う女っていざこの通りにしたらしたで文句言うんだよなぁ…‥何々が気に入らないとか友達のカレシもっとこうだったのに!とか言って」
千歳がぼそりと呟くと隣の出羽が苦笑する。
坂東はそんな女のワガママぐらい聞いてやらないでどうする?そんなの男じゃないと騒いでいたが、翔平がでもさんちゃん目玉焼きに醤油かける女は嫌なんだよね、と言ってから目玉焼きにはソースだろと鎌本が言い始め、途端に目玉焼きに何をかけるか論争が勃発した。俺はどっちでもある方かけるわ、と思いその論争には参加しなかった。
『第10位☆サプライズでイベントを祝ってもらいたい!!』
サプライズか、指輪貰ったぐらいだけど。そういえばアイツは何か毎月なんとか記念日だからってなんか買って来るな。
『第9位☆街中で手を繋いで欲しい!!』
外ではヤメロっても自然に繋いでくるから最近諦めた。
『第8位☆ついうたた寝してしまった時にそっと毛布をかけて欲しい!!』
えっ、普通じゃね。みんなしねぇのかな。うちの場合は毛布ってかベッドに連れて行かれるけど。
『第7位☆頭を撫でてもらいたい!!』
もらいたいか?俺はなんかムカつくけど。アイツふとした時に撫でてくるんだよな、しかもスゲー幸せそうな顔するからなんとなく拒否れなくてそのままにしてるけど女受けいいんだな。
『第6位☆いきなり後ろから抱きついてもらいたい!!』
これしょっちゅうされてるとウザいぞ。しかも人が料理してる時にやられると危ねぇしやらない方がいぜ。
『第5位☆体調が悪い時に看病してもらいたい!!』
俺が風邪ひいた時に仕事無断欠勤した馬鹿だからな。そこまでしなけりゃいいけど。でも移ったら面倒だから極力近付かないでほしい。絶対無理だけど。
『第4位☆愚痴など黙って優しく聞いてもらいたい!!』
アイツは基本聞いてるようで俺の話聞いてない。特に俺が今日誰と遊んだとかの話題は相槌は打つが聞いてない。お前聞いてんの?って言うと高確率で美咲の声は聴いてるって中身は全然聞いてない。
『第3位☆色々な場所へ連れて行ってもらいたい!!』
俺は出かけたいタイプだけどアイツはインドアだからあんまり。でも休みになると何処か行きたい所は無いのか、とか言って俺が行きたいって所は文句言わずについて来るな。疲れてるだろうと思って買い物とか行かないで家でのんびりして、次の日に他の奴と出掛けたりするとメチャクチャキレられるってか泣かれるけど。
『第2位☆疲れたり落ち込んでいる時に何も言わずに抱き締めてもらいたい!!』
まあ、あるな。逆もしかり。
『そして第1位☆寂しい時に一緒にいてもらいたい!!』
寂しい時、か。尊さんがいなくなって腐ってた俺と一番長くいてくれたのはアイツだよな。
うん、色々面倒くさい奴だけどアイツって女から見たら理想のカレシなんじゃないのか。頭イイし、見てくれも悪く無いし、公務員だし。優良物件てやつ?
「八田さん!!!八田さんはどっちですか?!!」
鎌本の声でハッと我に返り、何故か咄嗟に口から出たケチャップの一言に争いが激化した。
その後、そろそろアイツから電話がかかってくる時間になるのでまだ争いが続くHOMRAを後にした。
買い物をして部屋に戻った途端にアイツから電話がきた。
それからゲームしたりして時間を潰し夕飯の用意をしているとアイツが帰って来た。夕飯を食べ、ソファーでくつろいでいる時にふと昼間の事を思い出した。
「そう言えばお前ってさ」
「ん?」
「女からすると理想のカレシらしいぜ」
「…‥は?」
あっ、ヤバい。コレ、面倒くせぇことになる。そう悟った時には遅かった。
「何、美咲…‥今日女と逢ってたの?どういう事?つーか何処の誰だよ」
「いや、違うって」
「今日はHOMRAに行ってたんじゃねぇの?客か?そいつらに何か言われたのか?オイ、どんな女だ。俺の許可なく美咲と喋りやがって…‥許さねぇ」
「いやいやいや違うっつーの!!!」
ああ、やっぱり面倒くせぇ。
行くら理想的だろうが面倒くせぇ。女だってきっとそう思うだろう。
慣れたっちゃ慣れたけどさ。
「今日テレビで女がカレシにしてもらいたい事ランキングとかやっててさ。見てたら何かお前けっこう当てはまるから女にとっては理想的なカレシなんじゃねぇのかなーって思っただけ」
「はぁ?そんなの1nanoも嬉しく無いんですけど」
「んだよナノって」
「…‥チッ。美咲にとっての理想のカレシじゃないんなら意味ないっての」
「俺は男だぞ?理想のカレシなんて考えるワケねぇだろ」
「じゃあ美咲の理想の旦那は?美咲は俺の理想の嫁だけど」
「誰が嫁だ!!…‥だから理想なんてねぇよ」
「じゃあ好きな人ランキングは?」
「なんだそのランキング」
「俺の中では1位、今の美咲。2位、中学生時代の美咲。3位、吠舞羅馬鹿だった頃の美咲です」
「全部俺じゃねぇか…‥」
「当たり前だろ?」
クソ真面目な顔で言い切ると、何やら視線で訴えられる。
好きな人、か。そりゃあ尊さんや吠舞羅のメンバーは外せないし家族もいるしバイト仲間もいる。それに順位をつけようと思った事なんて無いけど。
「なあ、美咲。好きな人ランキングで俺は何位?」
だけど。
「…‥ランキング外」
「えっ?」
俺の言葉に、さっきまでニヤついていた表情が凍る。
ただでさえ青白い肌が余計に青ざめる。
多分このまま放置したら無表情で泣きだすパターンだろう。
俺はソファーから立ち上がると明日の弁当の用意をする為にキッチンに向かう。
「殿堂入りはランキングには入らないだろ?」
自分で言ったけどちょっとハズイ。
猿比古が何か言う前に皿を洗うふりをして水を流し出すと、尋常じゃないスピードで猿比古が背後に回って抱き付いて来た。
「部屋ん中で力使うんじゃねぇーよ!!!てか毎回毎回無言で背後から抱き付くな!!!」
「…‥美咲、俺は殿堂入りもランキングも全部美咲だから」
「あーそりゃどうも」
「俺、美咲と結婚して良かった」
「いや、してねぇよ?」
「美咲は最高の嫁だよ」
「俺の話を聞いてない上に泣くのヤメロ。あと邪魔だから離れろ」
「…‥絶対離れねぇ」
「いや、邪魔だっての。お前の弁当の準備するんだからな?」
「終わったら一緒に風呂入ってくれるなら離れる」
「はあ?お前はとっとと風呂入って寝ちまえよ」
「嫌だ。一緒に入ってくれるまで離れない」
「…‥はあ、わぁーったよ。だから離れろ。あと暇ならそこその皿拭け」
「うん」
切り替え早ッ。
嬉々として皿を吹き出す猿比古を横目に手を洗うと準備に取り掛かった。
END.