そんな夜でも(現パロ/リヴァエレ)
暑い、と先程から何回呟いただろう。
梅雨独特のじめじめした蒸し暑さに悶えながらソファーに座り、興味も無いバラエティー番組を眺める。
持っていたカップの中で氷がじわじわと解け、薄い麦茶をより薄めて行く。
「…‥暑い」
風呂から上がったリヴァイさんが眉間に皺を寄せながら、俺がその辺に放り投げておいたフリーペーパーを団扇がわりに仰ぎながら俺の横に腰を下ろした。
「麦茶いれて来ましょうか?」
「それでいい」
「これ、ちょっと温いかもしれませんよ」
「いいから寄越せ」
俺の手からカップを奪い、まるでお酒でも飲むようにグイッと麦茶を飲んだ。
ん、と返された時にカップに残っていたのは、底から1㎝ほどの麦茶色をした水と丸く小さな氷の欠片。
明日はもっと濃い目に作ろう。
残りの麦茶を飲み干すと、俺は再びテレビに視線を向ける。
「…‥エレン」
「はい」
「窓開いてんのか?」
「ええ、でも風があまりないみたいでずね」
「朝も夜も暑いなんてクソみてぇな季節だな」
「そうですね…‥リヴァイさん」
「あ?」
「クーラー点けませんか?」
「ダメだ、今年はまだ掃除をしていない。それに、この状態で点けると最初の風は埃やゴミを含んだ非常に不衛生かつ不愉快な匂いが漂うので却下」
「…‥ですよね」
まあ、想定内の答えだ。
ああ、でも暑い。このじんわりと汗をかく感覚も嫌だ。
いっそのことカーペットを捲ってフローリングの上に寝そべりたい。
そんな事をしたらきっと蹴り飛ばされるだろうけど。
「…‥暑い」
「暑いな」
俺の方まで届くように仰いでくれる。
それはリヴァイさんの優しさなんだけれど、どうしても解せない事が一つある。
俺は自分の左手に目をやる。俺とリヴァイさん間に置かれた手、その上にはリヴァイさんの右手が乗せられている。重なっている箇所が暑い上に、汗でしっとりと濡れている。
普段だったらこんな不愉快指数の高い事をする人じゃない。
暑さで少しオカシクなっているのだろうか。
「…‥リヴァイさん」
「扇風機も埃を落としてからな」
「違います…‥その、暑いですよね?」
「当たり前だろうが」
「なら、その…‥手、どかしません?」
俺の言葉にリヴァイさんの表情が一瞬だけピクリと動いた気がした。
リヴァイさんは黙ったまま一端手の方へ視線を落としたが、また何事も無かったようにテレビに視線を戻す。
お互いの手は重なったまま、かえってリヴァイさんの指が俺の指に絡んで来た。
「…‥あの、リヴァイさん?」
「これはそう言うもんだろ」
「そうなんですか?」
「そうだ…‥多分」
「でも暑くないですか?汗もかいてるしベタベタして気持ち悪くないですか?」
「うるせぇな…‥そう言うもんだって事にしとけ」
普段通りの口調で、少し耳を赤くして言うリヴァイさん。
絡んだ指と指。触れた部分から互いの熱が溶け、汗ばんでぴったりとくっ付く。
気持ち悪いと思ったけど、そうでもないような気がしてきた。
多分、そう言うもんなのだろう。
「…‥そうですね」
ああ、暑いな。
明日も、こんなに暑いのだろうか。
絡んだ指に少し力を入れると、リヴァイさんが明日はクーラーの掃除をするかと独り言のように呟いた。
END.